2013年8月13日火曜日

なぜオクタン価にはいくつも種類があるのか?

こんなサイトを見つけた
↓   ↓
http://www.poweraccel.co.jp/octane.html

オクタン価について解説しているサイトで
検索の上位にあげられており、
いろんな人が見ているらしい。

・・・・が、このサイト、いろいろ間違っている。

完全に嘘八百で間違いだらけなら
みんな騙されないだろうが
ちゃんと本当の事も書いてあるので
全てを盲目的に信じてしまう人もいるかもしれない。

間違いを全部指摘するのは面倒なので
1つだけあげておくと

>苦労の末に開発した無鉛ガソリンですが、
>ここで大きな課題が出てきたのです。
(中略)
>現在は清浄剤や助燃剤が添加されています。
>しかし、これらの添加剤による弊害でオクタン価の低下があり、
>初期の100オクタンが現在では87オクタンレベルまで
>落ちているのが現状です。

87オクタンに下がってる?なんですかね、それは?
もしそうだったら、JIS違反でしょう?
本当だとしたら石油会社を訴えないとダメじゃん。
それにそもそも、ガソリンに助燃剤なんて入ってませんって。

なんだろう、と思ったら、このサイトって、
添加剤の販売屋さんが書いていたのね。
ということは・・・・・・・
「今のガソリンの品質は低い!
だからウチの添加剤を入れろ!」
って言いたいがためのセールストークってこと?

他人の商売に口を挿むのは何ですが、
ちょっとこれは・・・・・ねぇ、、、(苦笑)

それと、オクタン価の種類の紹介もしているが、
オクタン価じゃないものや、
正式の数値でないものが混ざっている上に
漏れているオクタン価もある。

きちんと測定方法や誤差まで含めて
定義されているのは

1、リサーチ法オクタン価
2、モーター法オクタン価
3、航空法オクタン価
4、過給法オクタン価

の4つ。

「他にもオクタン価がある!」という人が挙げる
走行オクタン価は、一見すると
きちんと試験方法が決められているように思うけど
試験に用いる車両の状態や個体差により
データの再現性が全くないため、
精密な議論ができる数値たりえず、
あくまで参考値にしかならない。

また、1~4のうち、3の航空オクタン
4の過給オクタンについては
航空機用エンジンで用いられる値なので
陸上輸送機関用エンジンとしては
1のリサーチ法オクタン価(RON)
2のモーター法オクタン価(MON)
が用いられている。

一般にはRONは低速ノック、
MONは高速ノックに関する指標
ということになっており、
エンジンの教科書などにも
このように書かれていることもある。

たしかに燃焼やエンジンの専門家以外に
詳しい話をしてもしかたないので
とりあえずこういう話にしておこう、
ということになっているようだが、
実はこれが真っ赤なウソ(^_^;;)

何が嘘なのかはおいおい話すとして
そもそも、なんで複数のオクタン価があるのか?
「ノッキングの起きにくさの指標」なんだから、
1つの燃料には1つのオクタン価ではないのか?

このあたりを今日のテーマにしておこう。
といっても、一部分かりやすさを優先して
説明が飛躍してる所があるのはご勘弁を。

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炭化水素の燃焼反応というのは
数百度あたりの低温酸化反応機構と、
千度以上での高温酸化反応機構がある。

注1・・・ここで言う高温酸化反応は、
正確には「中温酸化反応」である。
これより上に「高温」があるからだけど
エンジンでそんな温度はありえないので
ここでは分かりやすさを優先して
「中温」ではなく「高温」ということにしておく

注2・・・燃焼なのに「低温」って何?と思うかもしれないが
これは燃焼にしては比較的温度が低い、
という意味で低温と呼ばれているだけなので、
マイナス100度の炎、なんていう、どこかの歌謡曲とは
まったく関係がない。(笑)

そして低温酸化反応と高温酸化反応の中間には
「遷移領域」と言われる温度領域があり
この温度領域では低温反応から高温反応に
次第に反応機構が変化していく。

反応機構が変化していくことから
この温度領域では不思議なことが起きる。

普通、温度が上がると火は付きやすくなるが、
この領域では、一部の炭化水素は
温度が上がるほど火が付きにくくなる
なんていう奇妙な現象が起こったりする。

ここまでは純粋な燃焼の話だが、
困ったことにエンジン内部では、
低温、遷移領域、高温のすべてがそろっている。

しかも、当然のことに、この割合は
アイドリングしているときと
全開で走っているときでは違う。

すなわち、大げさな言い方をすると、
エンジンの運転条件ごとに燃焼反応機構が違う、
ということをも意味する。

ということは、運転条件ごとに
燃料のオクタン価がいろいろに変化しても
全然おかしくない、と言えるわけだ。

実際、RONとMONでは
エンジン回転数や吸気温度が異なるため
RONではガソリンAの方がオクタン価が高かったのに
MONではガソリンBの方がオクタン価が高い
なんて変なことも起こってしまう。

全ては不思議な遷移領域をまたいで
化学反応が起こることのなせるわざと言える。

ここまで述べた理由のほかに、
「燃焼速度の影響」というものがあり、このため
同じエンジンで、同じ温度履歴であっても、
回転数が異なるとオクタン価が異なる、
なんてことも起きるのだが、
今回はそこには触れないでおこう。

それより注目してほしいのは
燃料のオクタン価というのは一つではなく
エンジンの運転条件、つまり回転数やアクセル開度など、
さらには気象条件(気温や気圧など)
によって変化してしまう、ということ。

同じエンジンでもこうなのだから
別のエンジンを持ってくると
これまたオクタン価が変わってしまう。

要するにガソリンと、エンジン、運転条件、気象条件
の全てがセットになって、初めてオクタン価が決められる。
ということになる。

つまり燃料だけ持ってきて
「この燃料のオクタン価はいくつ?」
なんて聞かれても、答えは
「エンジンや条件によって無限にある。」
としか答えられないのだ。

そのため、ASTMやISO、それにJISなどでは
オクタン価の測定用エンジンとして
CFRエンジンというものを使い、
さらには運転条件とか吸気に至るまで
試験条件が事細かに決められている。

CFRってどういう意味かというと、
ASTM-CFR(American Society for Testing and Materials -
Cooperative Fuel Research Committee)により
認可されたメーカーが製造しているエンジン
という意味で、現在、世界中に1社しかない。

このCFRエンジン、ずっと昔から使われているエンジンなので
初めてCFRエンジンを見た人は
「こんな古臭いエンジンでオクタン価測って
今のエンジンに当てはまるの?」
なんて心配をしたりするが、ご心配なく。
CFRエンジンは圧縮比や点火時期が自由に変えられたり、
吸気温度や湿度を変化させたり、いろいろ出来る。

それに、今から基準を他のエンジンに変えたりすると、
今までのオクタン価との関係が良くわからなくなってくるし、
どうせ、他のエンジンにとっての基準にはならない
という点ではCFRエンジンも今のエンジンも五十歩百歩。

他に政治的な問題(!)もあり、たとえば、
ホンダのエンジンを新しいCFRエンジンにする、
なんてことになったら
他のメーカーからの大ブーイングが起こる。
ここは、中立なCFRエンジンを使っておいた方が良い。(^_^;;)

昨今は、レース用ガソリンの使用は
ほとんどのカテゴリーで禁止され、
そのサーキットで販売しているガソリンを使うこと
となっているが、90年代以前のように
ワークスチームが専用のガソリンを持ち込めた時代は
この問題が多くの関係者を混乱させていた。

つまり、同じRON=100のガソリンを持ってきたのに
ガソリンAだとノッキングが起きなかったが、
ガソリンBだとノッキングが起きてしまう
なんてことが起きたりしたのだ。

しかも、
「じゃ、ガソリンBはダメガソリンだね」
と言っていたら、別のエンジンでは
ガソリンBの方がノッキングが起きにくかったりする。

「なんじゃこりゃ!ガソリンにも相性ってあるのか~!」
なんて絶叫していたら、別のサーキットに行くと
(気温や湿度、気圧が変わったため)
今度は別のガソリンCが一番ノッキングが起こらなかったりする。

まあ、ここまでひどい例は少ないが
おかげで、「オクタン価なんて参考ぐらいにしかならない」
というのが、80年代あたりのサーキットでの常識だった。

「ええぇぇっ!それじゃあ、何を参考にしたらいいの?」
という人に、とりあえずの福音を(笑)

最近(少なくともここ20年ほど)に
開発されたエンジンに限れば、RONが最も参考になる。
つまり、RONが高ければ、まあまあノッキングが起きない
と考えて、おおよそは間違いない。

そういうことで、世界的にはRONをもって
「オクタン価」としている国が多い。
(日本もその一つである)

それに市販ガソリンって、たとえばリッター150円とすると
そのうち50~60円くらいは原油代でアラブへの支払い。
60円くらいは税金なので、国への上納金。
残る30~40円くらいが本当の価格。

こんな価格では出来ることに限りがあるので
どこのガソリンも似たり寄ったりの中身である。
A社のハイオクガソリン入れたら大丈夫だったけど
B社のハイオクガソリン入れたらノッキングした、
なんて可能性はかなり低い。

(たとえば、リッター500円のエンジンオイルは
化学合成油なんか無理で、鉱物油しかありえない、
というのと似たような話である。)

RONが提唱されたのは、ずいぶん昔だが
今でも生き残っているのは、それなりの理由がある。

・・・ただし、数十年以上前(たとえば1950年代以前)のエンジンの場合は
必ずしも当てはまらないことがある。

実際20世紀初めごろにはRONの順位と
道路を走る車のノッキングの起きやすさが違い過ぎる!
と言われ、新たにMONが開発された、という経緯があり、
古いエンジンはRONではなく
MONのほうが当てはまることがある。

この辺はShellのG.Kalghatgi氏のグループが
一時期いろいろ論文を書いていたので
調べてみると面白いかもしれない。

でも、「将来的にはMONが低い燃料の方が
ノッキング性能が良いことになるはずだ」
・・・というのは、たぶん違うと思うけど。(苦笑)

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