2013年8月3日土曜日

KTMの390Dukeのエンジンはどういう性格なのか??(正味平均有効圧の話)

http://www.ktm-japan.co.jp/lineup/2013/390duke

エンジンの専門用語に
「正味平均有効圧」というのがある。

この値のイメージを簡単に説明すると
燃焼ガスがピストンを押す単位面積あたりの
平均的な力の大きさを意味し、
排気量1ccあたりのトルクに比例する。

エンジンの性格や、チューン度により
この値はいろいろな値をとるが、
最近のエンジンで、最高出力時の
正味平均有効圧を計算すると
おおよそ0.9~1.5MPa程度の値になる。

たとえば、2013年モデルのGSX-R1000の
正味平均有効圧(最高出力時)は、1.48MPa。
一方、我が家のCB1100では、0.91MPa。

CB1100の値が低いのは、圧縮比が低いこと
(GSX-Rの12.9に対しCB1100は9.5)
から容易に理解できる。

こんな数字は学術的にも存在しないが
正味平均有効圧を圧縮比で割ってみると
 GSX-R1000:1.48÷12.9=0.115
 CB1100:0.91÷9.5=0.096
となり、大雑把に0.1前後の値を取る事が多い。

この数字で見ても、GSX-R1000のほうが値は大きいが
そこは両者のエンジンの性格の違いが表れている
つまり、CB1100は低回転にトルクを振っている
という特性のため、と考えるのが妥当である。

他には、国内100馬力規制に縛られていた
ヤマハのXJR1300の場合
正味平均有効圧(最高出力時)は0.88MPaで
圧縮比9.7なので、同じ割り算をしてみると
  0.89÷9.7=0.092
となり、かなり低い値となる。これは規制で
意図的に馬力を下げている結果と推測できる。

実際、XJR1300について、最高出力時でなく、
最高トルク時で計算すると、
正味平均有効圧は1.08MPaであるから、
  1.08÷9.7=0.112
となり、0.091よりかなり改善される。
(おそらく、こっちの方がこのエンジンの
 本来の性能に近いのだろう)

この正味平均有効圧を計算すると
いろいろなことが分かる。
たとえば、BMWのツアラーR1200RTの場合
正味平均有効圧(最大出力時)は1.07MPa、
圧縮比は12.0なので
  1.07÷12=0.089
とかなり低い。ただし、最大トルク時で計算すると
正味平均有効圧は1.29MPaとなり
  1.29÷12=1.07
と大きく跳ね上がる。ツアラーのR1200RTは
低速トルクをたっぷりとってあり
「高回転のときなど全く考えるつもりはない!」
という主張が垣間見える。


さて、ここまではイントロで
問題はここからである。

KTMの新型390Dukeは、125cc並みの車体に
373ccのエンジンを積んだ、
ホットモデルとして注目されている。
さらに、このエンジンを使った
Moto3レプリカモデルが出ることが
正式に発表になるなど、かなりの注目株である。

しかし、このエンジン、よく分からない。

このエンジンの平均有効圧(最高出力時)が
なんと1.10MPaしかない。
CB1100より高いが、GSX-R1000よりもかなり低い。

さらに、この373ccエンジンの圧縮比は
12.9であるから、
正味平均有効圧を圧縮比で割った値は
  1.10÷12.9=0.085
となり、CB1100よりも、それどころか、
意図的に馬力を抑えているXJR1300よりも、
いやもっと言うと、高回転など考えてない!という
R1200RTよりも、さらに低い値となっている。

390Dukeの場合、XJR1300やR1200RTのように
最高出力を抑えていたり、低回転重視というわけでなく
全域でトルクが抑えられているようだ。
というのも、最高トルク時の
正味平均有効圧を見てみると、1.18MPaで
  1.18÷12.9=0.091
と、そんなに改善してない。つまりこのエンジンは
低回転にトルクを振っているわけでもなく
全域で、あまりパワーが出ていないのだ。

リッターバイクとばかり比べるのはおかしいというなら
同じ単気筒400クラスのヤマハSR400と比べよう。

SR400の正味平均有効圧は0.88MPaで圧縮比は8.5
割り算をすると、
 0.88÷8.5=0.104
であるから、圧縮比が低いエンジンのわりに
かなり頑張っている、という印象を受ける。

SR400に比べると、はるかに圧縮比が高いはずの
390Dukeの出力の低さがここでも目立ってくる。

ちなみに、ここで390Dukeの姉妹の
125Dukeと200Dukeについても触れておく。

125Dukeの場合、欧州の出力規制がかかっている。
その結果、正味平均有効圧(最高出力時)は1.01MPaと低く
圧縮比は12.8であるから
 1.01÷12.8=0.079
と、これまたかなり低い。

しかし200Dukeはそうした規制がないので
正味平均有効圧(最大出力時)は1.15MPaで
圧縮比が11.5なので
 1.15÷11.5=0.100
まあまあ普通の値を示している。

以上で説明したことから考えて、
他のエンジンと横並びで見た場合
390Dukeは、どう考えても50馬力+αぐらい
出ていてもおかしくないはずなのだが、
実際の値は44馬力しかない。

老婆心ながら付け加えると、
50馬力+αというのは、
別にリッターSSと比べて、という意味ではない。
せいぜいがCB1100やXJR1300、SR400あたりと
比べた場合、という意味である。
(リッターSS並みにチューンしていたら、
 60馬力くらい出てないとおかしいことになる)

この結果は意図的なデチューンなのか、
小さい車体に無理矢理大きなエンジンを積んだため、
吸排気の取り回しが苦しくなったせいなのか?
理由は判然としない。

ちなみに、意図的なデチューンの例として
インシュレータで不自然に吸気を絞っている
Ape100を例に挙げると、
正味平均有効圧(最高出力時)は、
なんと0.70MPaであり、圧縮比が9.4なので
 0.70÷9.4=0.074
である。いま、ざっと見てみただけだが、
最近のエンジンで、390Dukeよりも数字が低いのは、
このApe100しかいない。

バイクで大切なのは数字じゃない
乗って楽しいかどうかだ!
というのは確かにその通りだが、
数字からわかることも少なくない。

ホットモデルのはずの390Dukeの
エンジン出力の低さは何を物語るのだろう?

2 件のコメント:

astoria さんのコメント...

古い記事ですが興味深かったのでちょっと調べたところ、どうやらこのKTM RC390/390 Dukeのエンジンは欧州のA2ライセンスの35kW出力規制に対応するためリストリクターで出力が絞られているようです。
http://m.overdrive.in/news/ktm-rc390-rc200-and-rc125-unveiled-at-eicma-2013/

125ccと共通のフレームが耐えられるかどうかわかりませんがエンジン自体は吸排気系をいじることで出力向上の余地を残していると思います。真偽のほどはわかりませんが某所ではアクラポビッチのスリップオンサイレンサーつけてマップをいじれば5psのせられるなんて話も目にしました。なかなか楽しくさせてくれる話ではないでしょうか。

mos さんのコメント...

astoria様
コメントありがとうございます。なるほど、リストリクター装着ですか。しかし、そうであれば、リストリクター解除バージョンも発売されてしかるべきと思いますが、それがないのは何故なんでしょうね?